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東京高等裁判所 昭和44年(行コ)39号 判決 1971年4月27日

控訴人・原告 田中福美

補助参加人 船木潔 外一二名

訴訟代理人 中村了太 外一名

被控訴人・被告 川崎市長 金刺不二太郎

訴訟代理人 佐藤兼蔵

主文

原判決中被控訴人に関する部分を取消す。

控訴人の被控訴人に対する本件各訴えをいずれも却下する。

訴訟費用のうち控訴人と被控訴人との間に生じた分は第一、二審を通じ控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中被控訴人に関する部分を取消す。被控訴人が藤沼貞一に対し昭和四〇年三月五日なした川崎都市計画事業復興土地区画整理事業第三工区七九街区一〇画地の停止条件付払下げ及び昭和四一年六月三日なした同土地の使用許可処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の関係は、つぎに付加訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決五枚目表四行目から五行目にかけて「昭和三九年五月二三日そうでないとすれば」とあるを、同八行目から末行までを、同枚目裏一行目「(ロ)または」とあるをいずれも削除し、同四行目「また換地処分の公告により」とあるを「また昭和四一年六月三日換地処分の公告により」と訂正する。

二  被控訴人は川崎都市計画事業復興土地区画整理事業第三工区について昭和四五年六月八日換地計画につき神奈川県知事の認可を受け、同月三〇日換地処分を行なつたと述べ、控訴人は換地処分が被控訴人主張の日になされた事実を認めると述べた。

三  証拠<省略>

理由

一  成立に争いない乙第一号証、同第七号証に証人高井正雄、同倉形勲の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、川崎市は戦災復興を図るため特別都市計画法(昭和二一年法律第一九号)による土地区画整理事業を行なうことになり、その第三工区の事業計画についても神奈川県知事の認可を得、昭和二六年一二月一五日川崎市大島町一丁目一六番地外一六筆の土地について本件第三工区七九街区一〇画地を含む換地予定地の指定(同法一四条)を行ない、本件土地は将来替費地と指定することを予定し、その所有者添田真一に対し土地使用制限の通知をしたが、昭和三〇年四月一日から土地区画整理法が施行され、前記土地区画整理事業は右土地区画整理法に基づく土地区画整理事業(川崎都市計画事業復興土地区画整理事業)とされ、本件替費地の予定地は土地区画整理法における保留地の予定地となり、昭和四五年六月八日第三工区につき神奈川県知事による換地計画の認可があつたことにより、右土地が保留地となつたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかして、被控訴人が昭和四〇年三月五日右保留地予定地を右が換地処分により同人所有の保留地になることを停止条件として藤沼貞一に対し停止条件付払下げをしたこと、昭和四一年六月三日右保留地予定地を右が被控訴人所有の保留地になることを解除条件として右訴外人に対し解除条件付使用許可処分をしたこと及び昭和四五年六月三〇日右第三工区の換地処分を行なつたことは当事者間に争いない。

二  地方自治法二四二条の二の規定により、取消し又は無効確認を訴求することをうるのは行政処分たる行為に限られる(同条一項二号)ので、控訴人が本訴において取消しを求める保留地予定地の停止条件付払下げが行政処分たる行為であるか否かを検討するに、右は保留地予定地に関する処分である点において保留地の処分とは異なるものの如くであるが、該土地が換地処分により被控訴人所有の保留地となることを停止条件とする払下げであるから、払下げが効力を生ずるのは該土地が換地処分により被控訴人所有の保留地となつたときと解すべく、かく解するときは右払下げの性質は保留地の払下げと何ら異るところがないところ、保留地の処分は、土地区画整理法一〇八条一項によれば「当該保留地を定めた目的のために、当該保留地を定めた目的に適合し、且つ、施行規程で定める方法に従つて処分しなければならない。この場合において、施行者が建設大臣である場合は国の、都道府県又は都道府県知事であるときは都道府県の、市町村又は市町村長であるときは市町村の、それぞれの財産の処分に関する法令の規定は、適用しない。」と規定し、右規定の趣旨とするところは、保留地は土地区画整理事業を施行するために必要な費用を捻出するためその他施行規程に定める目的のためのものである(同法九六条一項)から、その処分に当たつては出来る限り高額に処分する等その目的にそうべきであるというにあり、川崎都市計画事業復興土地区画整理事業施行規程(昭和三九年三月二六日川崎市規則第五号)は、成立に争いない乙第一号証によれば、その第八章「保留地の処分」第三三条ないし第四六条において、保留地の処分につき詳細な規定を設けているが、その目的については特に定めるところはなく、その定める方法の骨子は、施行者が保留地を譲受けようとする者を公募し、一定の資格を有する者に譲受けの申請をさせ、原則として指名競争入札の方法により、特別の場合に随意契約により譲受人を決定し、譲受人との間に譲渡契約を締結するというにあり、これは明らかに指名競争入札又は随意契約の方法による対等なる当事者間の合意の方法を採用したものと解すべく、以上を総合して考えるときは、被控訴人における保留地の処分は被控訴人の優越的地位における意思の発動たる権力的性質を何ら有しないものと解すべきであり、従つてこれを行政処分と解するを得ないものである。

しかして、前出乙第一号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第三号証、証人高井正雄、同倉方勲の各証言を総合すれば、本件保留地予定地の停止条件付払下げも右土地区画整理法一〇八条一項、川崎市の前記施行規程に基づいて行なわれたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

それゆえ、本件保留地予定地の停止条件付払下げはこれを行政処分というを得ないからこれを行政処分としてその取消しを求める本訴請求は不適法として却下を免れない。

三  つぎに、被控訴人のした解除条件付使用許可処分の取消請求について考えてみるに、前叙のとおり、右許可処分は昭和四五年六月三〇日川崎都市計画事業復興土地区画整理事業第三工区の換地処分がなされたことにより解除条件が成就し、以後効力を有しないものであるから、仮りに右使用許可処分が行政処分として地方自治法二四二条の二の取消しの対象となりうるものであるとしても、すでに効力を有しないものであり、またこれを取消してみても回復すべき法律上の利益は見当らないから、右取消請求は訴えの利益を欠くものといわざるを得ず、されば却下を免れない。

四  してみれば、控訴人の被控訴人に対する本訴請求はいずれも却下すべきものであるところ、原判決はこの点結論を異にしているのでこれを取消して本訴請求をいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 小林信次 裁判官 中平健吉)

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